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実務者・社労士のための 労災保険全般Q&Aプロ

  実務者の方や社労士の方から、実際に河社会保険労務士事務所へいただいた労災保険の全般に関するご質問を抜粋してご紹介します。
  ちょっとした細かい疑問とか、役所であまり教えてくれないこととか満載(予定)の、ディープでちょっとためになる「プロフェッショナルのためのQ&A集」です。

労災保険 全般に関するQ&A


 

6 事業主は、労災保険の請求書に必ずハンコを押印しなくてはならないのですか?ハンコを拒否(証明拒否)をすることはできないのでしょうか?<更新27年3月10日>

6-1  事業主のハンコは「災害の事実」の証明です。原則、事業主はハンコを押印しなくてはなりません。

  労災保険の請求手続きには、事業主のハンコ(事業主証明)が必要ですが、この労災保険請求手続きに必要な事業主証明とは、会社がその災害を「業務災害」又は「通勤災害」と承認した証明ではありません。あくまでも、負傷・発症の日時、災害発生状況など「災害の事実」の証明です。
  したがって、ほとんどの災害では、事業主が災害の事実を確認していますので、事業主は、労災保険請求書に事業主のハンコを押印(事業主証明)しなければなりません。


  ちなみに、労災保険請求書にある事業主印欄には、小さい字で、

  • 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)には
      12欄(被災労働者)の者については、10欄(負傷又は発病年月日)、17欄(負傷又は発病の時刻)及び19欄(災害の原因及び発生状況)に記載したとおりであることを証明します。
     
  • 休業補償給付請求書(様式第8号)には、
      12欄(被災労働者)の者については、7欄(負傷又は発病年月日)、19欄(療養のため労働できなかった期間)、20欄(賃金を受けなかった日の日数)、32から38欄まで(38のハを除く)(労働者の職種、負傷又は発病の時刻、平均賃金、所定労働時間、災害の発生原因及び発生状況、厚生年金保険等の受給関係など)及び別紙2(一部休業があった場合に添付する書類)に記載したとおりであることを証明します。

との記載があります。

  このことからも、事業主は、労災保険の請求に際して、負傷・発症の日時、災害発生状況(休業補償給付などの場合は、休業期間など)について証明を求められますが、「災害が業務災害又は通勤災害であることの証明」は決して求められていないことがわかります。

・・・ 労災保険請求書の事業主証明欄をチェックしてみましょう ・・・

様式第5号の事業主証明欄

画像をクリックすると拡大します

様式第8号の事業主証明欄

画像をクリックすると、拡大します

 

  一方、労災保険法施行規則第23条により、被災労働者がケガ等のため自ら労災保険請求手続きができない場合、事業主は、労災保険の請求手続きを手助けしなければならないことになっています。

  したがって、事業主は、被災労働者等から、労災保険請求のための協力を求められたときは、会社の担当者が労災保険請求書の必要事項を記入するなど、請求手続きを助力するとともに、災害の事実について証明(事業主のハンコの押印)をしなければなりません

 

<参考>
Q3 労災保険を請求するときは、誰が手続きをするのですか?
Q4 労災保険請求書にハンコを押すのは誰ですか?

6-2  どうしても労災保険請求書に事業主のハンコを押印したくないときは、その理由を被災労働者等に説明したうえで、労働基準監督署にご相談ください。
  事前に当事務所へご相談いただくと、よりよい対応がアドバイスできます。

  通常の労災保険の請求の場合、事業主が災害等の事実を確認することは可能ですから、
災害等の事実について証明する(事業主のハンコを押印する)することに抵抗はないと思います。

  しかし、労災保険請求が仕事を原因とした疾病(例えば、精神疾患、長時間労働が原因の脳疾患・心臓疾患など)の場合で、災害等の事実を事業主が確認できないときはどうでしょうか?

  例えば、こんなケースを考えてみます。

事業主がハンコを押すことを躊躇する例

  ある会社の従業員が心筋梗塞で倒れ、そのまま亡くなってしまいました。

  その後、亡くなった従業員の妻から「夫が心筋梗塞で死亡したのは、会社の長時間労働が原因なので、夫の死亡は労災だ。これから、労災保険の請求をするから、労災保険請求書に会社のハンコを押印してほしい」との依頼がありました。

  会社は、亡くなった従業員の既往症(高血圧)は把握していたものの、この亡くなった従業員は長時間の時間外・休日労働をしておらず(時間外・休日労働を合算して月に30~40時間程度だった)、かつ、この従業員が倒れる直前から前日にかけて、特に異常な出来事もなかったので、この従業員が亡くなった原因である心筋梗塞と仕事はまったく関係がないと考えていました。

  そのため、亡くなった従業員の妻に、厚生労働省の脳・心臓疾患の労災認定パンフレットを見せながら、会社の考えを説明するのですが、まったく理解してもらえません。妻は一貫して「労災請求する」と言っています。

  このような場合、会社は、妻の労災保険請求を止めることはできないのでしょうか?

  労災保険請求を止めることができないと、妻は労災保険の請求手続をすることになるですが、こんなときでも、会社は、原則どおり、労災保険請求手続きを助力するとともに、労災保険請求書に災害の事実を証明しなければならないのでしょうか?

 

<参考>
 【厚生労働省】脳・心臓疾患の労災認定パンフレット(6,794KB)
 https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11.pdf​

 

 Point 
  • 今回のケースでは、労災保険の請求人は、亡くなった従業員の妻(遺族)です。
     
  • 亡くなった従業員の妻(遺族)に労災保険請求の意向があれば、会社は労災保険請求を止めることはできません
  • いくら会社が死亡と仕事は一切関係ないと考えていても、労災保険の請求人(今回のケースでは妻)が労災保険を請求するのを止めることはできません。
     
  • 労災保険施行規則では、労災保険の請求人(今回のケースでは妻)から労災保険請求のための協力を求められたときは、会社は、担当者が請求書の必要事項を記入するなど、請求手続きを助力するとともに、災害の事実についての証明が義務付けられています。
     
  • 労働基準監督署は、相当の理由があれば、労災保険請求書に事業主のハンコがなくても請求書を受け付けてくれます。

………………………………………………

  上記のような会社が労災保険請求書にハンコを押すことを躊躇するようなケースでは、労災保険請求人(上記の例では、亡くなった従業員の妻)に対して、以下のような対応を取った上で、事業主のハンコを押印しない(事業主の証明欄を空欄のままにする)ことが可能です。

労災保険請求前における 会社のおもな対応例

  • 労災保険請求人に、会社が仕事と死亡に一切関係がないと考える理由をきちんと説明する。
  • 労災保険請求人に、事業主のハンコが押印してなくても、労働基準監督署は労災保険請求書を受け付けてくれることを説明する。
  • 事業主のハンコを労災保険請求書に押印しない会社の考えをまとめた「理由書」を作成する。(この理由書は、労働基準監督署長あてになります。また、理由書には事業主のハンコを押印します)
  • 労災保険請求書の事業主証明欄は空欄のままにし、その代わりに「理由書」を労災保険請求書に添付するよう、労災保険請求人に依頼する。
  • 会社は、労災保険請求に伴う労働基準監督署の調査に誠意をもって協力し、必要な書類は会社から直接労働基準監督署へ提出することを労災保険請求人と約束する。
  • 労災保険請求に関して配慮をする(例えば、どの労働基準監督署に労災保険請求書を提出するか案内する、労災保険請求書に記載する労働保険番号を教える など)
     

労災保険請求後における 会社の対応例

  労災保険請求人が労働基準監督署等に労災保険請求書を提出し、労災保険請求を行うと、労働基準監督署の調査がスタートします。

  労働基準監督署の調査がスタートすると、さまざまな書類の提出依頼があったり、関係者の労働基準監督署への呼び出しや労働基準監督署職員が会社を訪問する実地調査などが行われますが、会社として調査に協力しましょう。

  また、このとき、労災保険請求書に事業主のハンコを押印しなかった(事業主証明を拒否した)理由の確認もされますので、会社は、理由書に基づいて会社の考えを説明します。

  調査は、何カ月も続くことがありますが、真摯に対応します。

 

  上記の例と直接関係ないですが、場合によっては、(労働基準監督署の調査中・調査後に)労働基準監督署から「この事案は労災認定されることとなったため、労災保険請求書に事業主のハンコを押印してもらえないか」と依頼されることがあります。
  これは、労働基準監督署の調査の結果、この事案は労災認定されることになった、つまり、会社が労災と考えない理由が労働基準監督署には認められなかったということです。
  会社の考えが認められなかったことは残念ですが、労働基準監督署が調査した結果ですので、ぜひ依頼に応じてください。

 

…………………………………………………
 

  以上が事業主のハンコを押すことに躊躇するケースにおける対応の主なポイントです。
  しかし、実際には、事案に応じたきめ細かい個別対応が必要になります。
  事案に応じてよりよい対応をするため、ぜひ、事前に当事務所へご相談ください。

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